tale-kagemusume

以前のリビジョンの文書です


普通の妖異だったのに転生したら悪役令嬢に生まれ変わっていた件

夢を見ていた。

夢の中のわたしは黒い影。その影はいつも独りぼっちで、いつも一人で泣いている。

みんなから忌み嫌われ、追いつめられ、そして……世界から見捨てられた。

いや違う……。

最後、死の直前に誰かがわたしを救ってくれた。

誰かがわたしの魂に救いを与えてくれた。そうあの人は……。

「わたし待ってるからっ!」

絶叫しつつ、わたしはベッドで跳ね起きた。私を起こしに来てくれたメイドが目を丸くしてわたしを見つめている。

「お嬢様!? どうされました!? 」

「ごめんなさいHachi。変な夢を見ちゃった。」

「ふふふ。思わず大声を上げるほど怖い夢だったのですね。」

そう言ってHachiはやさしく微笑んでくれた。

彼女はいつだって優しい。

彼女はどんなに辛いときもわたしの傍にいてくれて、どんなときでもわたしの味方になってくれる、わたしにとって大切な友人だ。

いや、友人というよりお母さん? なんて言ったらお母様に悪いかな。

「今日は生徒会選挙。わたしの学園生活にとって天王山となる大事な日よ。だからきっと緊張して変な夢を見たんだと思うわ。」

「そうですか。お嬢様と一緒に学園に通えるのも今年が最後となります。わたくし精一杯応援させていただきますね!」

「Hachiー! 愛してるー!」

彼女の胸に飛び込んで思いっきり甘えながら、わたしは頭の中で膨らみ続ける不安を打ち消そうとした。

しかし、その不安は秒を刻むごとにより強固な確信へと変化していく。きっとそうだ。

今朝わたしが見た夢は、間違いなくわたしの前世の記憶だ。


前世の私は妖異だった。それはつまり世界の理から外れた存在だったということだ。

わたしは山奥の寒村で人々の目から隔離されて育てられていたが、限界集落だった村から人がいなくなってしまい、わたしはひとり街へと出ていくことにした。

世間の常識を持ち合わせておらず、人でもないわたしは、行く先々で騒動を起こし、そして追い払われた。

最後に辿り着いたのはその世界でもっとも大きな都。

沢山の人が集まる都会では、わたしのような妖異が一匹紛れ込んだところでさしたる問題とはならなかった。

わたしは都会の闇に紛れ込み、盗みを働くことで生活を続けていた。


ある日、警察から追われて捕まりそうになった。そのとき、あの男に出会った。

あの男は乱暴な人間で周囲から恐れられていたみたいだったけど、何故かわたしには優しくしてくれた。

わたしに安心して働ける仕事をくれて、男の家で一緒に暮らせるようにしてくれた。

男には亡くなった弟か妹がいたらしく、困っているわたしを放っておけなかったらしい。

「まったく俺らしくねぇ……」

男はわたしの目を見てときどきそんなことを言っていた。


男との生活はわたしにとって初めての家族の温もりを与えてくれた。

それは仮初のものだったけど、もう孤独には戻れなくなってしまった。


そしてある日、男が殺されたということを男の仕事先で知らされた。

わたしは怒りに震えた。復讐心が私の全てを支配した。

今になって思えば、それはただ自分が孤独に戻ってしまう恐怖から目を逸らしたかっただけなのかもしれない。


そしてわたしは復讐を果たした。しかし、わたし自身も大きな傷を負って死を目の前にしていた。


最後の時、それが警察だったのかどうかよくわからないけれど、とにかく秩序を守る側の人間にわたしは追いつめられた。

どうせすぐに消える命だった。

わたしは破れかぶれになって彼女と戦って……そして敗れた。


彼女からすればわたしはただの大量殺人犯。

唾棄すべき存在にしか過ぎない。

わたしはこの世の最後に、わたしを憎み蔑む目を睨み返してやろうと思って彼女を見上げた。

「あの……局長を助けてくださってありがとうございます。」

彼女はどこか悲し気で優しい笑顔を浮かべながら、そんなことを言った。


わたしを孤独にした世界。

わたしをイジメた世界。

わたしを苦しめるだけだった世界を呪って呪って呪って死んでやろう。

そう思っていたわたしの心の壁が一気に崩壊した。


「きっと……わたしは地獄へ落ちるんだろうなぁ……たくさん殺しちゃったし……」

でも地獄だっていい、もしかしたらあの男がいるかもしれない、孤独でなければそこがいい。

「でも……もう一人はいやだなぁ……。」

聞こえないほど小さな声だったはずなのに、彼女は目に涙を浮かべてわたしの手をとった。

「局長の恩人は私にとっても大切な恩人です。そんな大事な人に寂しい思いをさせるわけにはまいりません。

なので……なのでわたくし必ず貴方のところへお伺いします。貴方がどこにいようと必ずです。

だからどうかその時は貴方と一緒にいさせてくださいね。

貴方に家族や友達がたくさんたくさん出来て寂しくなくなるまで、ずっと……ずっと一緒ですよ。」

彼女にはわたしの声が聞こえちゃったのか、こんな時なのにちょっと恥ずかしかった。

わたしの心の深いところが、ふっと暖かくなった。

「ねっ、お約束しましたよ。」

わたしのほとんどが世界から消失していく中、わたしが応えた言葉は彼女に届くのだろうか、でもそんなことはもうどうでもよかった。


「待ってる。」





CREDIT

  • tale-kagemusume.1555664893.txt.gz
  • 最終更新: 2019/04/19 18:08
  • by hachistudio