tale-jin01

概要

妖異によって顔に傷を負った少年が、傷に引き付けられてくる妖異と対峙していく中で成長していく物語。 (※この物語に登場する人物はすべて18歳以上だよ。)


「わたしに内緒で……」と口を動かし続ける彼女の目には涙が浮かび始めていた。

登場人物

● 嘉瀬川仁(きせがわひとし)
 小学生の時、偶然居合わせた森城柑奈の祖母と共に逃走中の妖異カワハギ兎と遭遇。森城(祖母)が妖異に襲われたときに、大声を上げて妖異を挑発したため自分も襲われるが、危ないところを不破寺真九郎によって救われる。

 真九郎と森城(祖母)は、恐怖に震えながらも妖異の注意を引付けた彼の勇気を認めていたが、本人はただ怖くて悲鳴を上げただけだったため、この時のことをどこか恥じている。森城(祖母)はこの時の怪我が原因で数か月後に死亡。

 また怪我の治療のため学年が一年遅れた上、顔に残った傷が気味悪がれ、孤立した中学生活を送るが、事情を知る人々が彼を懸命に支え続け、なんとか無事に高等学園に進学することができた。現在は帝国妖異対策局に入るために勉学に励んでいるが成績はそこそこ。

● 森城柑奈(もりしろかんな)
 仁の一つ年上の幼馴染。学年は2年上。黒髪ロングで切れ長の目を持つ美少女。文武両道に秀で学業成績は常に5位内に入っている。普段は静かで凛とした雰囲気を醸し出しているが、こと仁のことになると色々抑えがきかない。元々、仁に好意を持っていたこともあるが、祖母のために傷を負った仁を何としても護ろうとする。仁が好き過ぎてもう後戻りできないヤンデレレベルに足を突っ込みつつある。脳内では既に婚姻届を提出済み。

第0話 傷

 「うわぁぁぁ!」

 大声で叫ぶ僕に妖異が向かってきた。その大きな爪が振り上げられるのを僕は見つめていた。その動きはスローモーションのように僕に迫ってくる。しかしそれを避けようとする僕自身の動きも凄く遅い。

 「仁ちゃんー!」

 柑奈のお祖母ちゃんがそう叫ぶのがちらっと見えた。早く逃げればいいのにと思った瞬間、僕の顔に衝撃が……。

 ( 僕の顔が半分無くなっちゃった! )

 後になってそこまで酷い状態じゃないってことがわかったけど、この時は本当にそう思った。目の前で妖異の大きな口が開くのを見た僕は恐怖で全身の力が抜けてしまい、ズボンの中には生暖かさが広がっていくのを感じた。まるで熊のような大きな爪に引き裂かれる恐怖が僕のすべてを覆った。ただただ怖かった。

 だけど心の奥の奥の小さな僕が怒っているのが見えたとき、僕の心の奥の奥で小さな僕が叫ぶのが聞こえた。「畜生!こんな化け物にやられちまうのかよ!」

 再び振り上げられる妖異の爪を見つめながら、ガクガク身体を震わしながら、残された右目から涙を流しながら、僕は「ふざけるな!」と強く思った。そして怒りをもって妖異を睨み返した僕の口からは、全身全霊を込めた大きな怒りの声が吐き出された。

 「こんちくしょぉ!」

 妖異が僕の目を見たとき不思議な感じがした。恐ろしい瞳で睨み返してくるとばかり思っていた妖異の目の中には、やつの恐怖心があった。僕はこのとき妖異が怯えていることを確信した。    同時に妖異の首元から何か光るものが飛び出していることに気が付いた。それはゆっくりと妖異の首からひっこんだと思ったら、次の瞬間、左から右へと何かが煌めいた。    何が起こったのかさっぱりわからないまま僕が動けないままでいると、妖異の首がゆっくりと転がり落ちていくのが見えた。そして、その後ろには大きな刀を持った鬼のお姉ちゃんの姿が見えたんだ。

 もしかすると助かったのかもしれない。そう思った瞬間、僕の意識は真っ暗になった。

第1話 悪夢の学園生活

 高等学園生活が始まって一週間。いまだに目まぐるしい環境の変化への戸惑いつつも、クラス内には新しい友達関係が生まれ、うっすらとした派閥のようなものも形成されつつあった。

 そして当然ながら俺はクラスで完全に孤立していた。休み時間ともなれば、水の中に落とした一滴の油のように俺は浮いた存在と化す。俺に話しかけてくるのは学級委員か日直、何か用事があるやつだけだ。その会話もプリントの提出確認とか事務的なものだけ。特に自分から積極的に話しかけることもないので、ますます孤立化が進んでいる。

 こうした状況には慣れっこだし、そうなるのも仕方のないことだと理解している。俺の顔には、左の額から頬に向けて深い傷跡があるし、左耳に到っては半分ほどが欠けている。普通こういう人間を目にすれば、誰だって怖くて気味が悪いと思うのが当たり前だ。これは懸けてもいいけど、もう既に学校側には俺の容姿について親からクレームが何件も入っているに違いない。

 しかし自分で言うのも変だろうけれど、それほど俺自身は鬱屈はしてない。少なくとも自分ではそう思っている。誤解やイジメ、孤独に対する葛藤……そういうのは中学校で散々乗り越えてきたからだ。

 乗り越えてきたと言ったが、つまるところ色々乗り越えられてきたのは沢山の人たちが俺を支えてきてくれたからだ。だから俺は「大丈夫」だった。きっとそのうち俺がただのヘタレだと気付いて、今ほどの警戒した空気がクラスを満たすようなことはなくなるだろう。

 「コツン……。」

 放課後。皆が帰り支度や部活見学に向かおうとする中、俺の耳がその微かな足音を捉えた。実際に音として耳に聞こえたのかどうかはわからない、半分は感のようなものだったが、俺はそれが足音だということに確信をもっていた。やわらに俺が立ち上がるとクラス全員が会話を止めて固まった。

 「コツンコツン……。」

 逃げ出すべきかどうか俺が思案している間に、足音は教室の前で止まった。

 扉が開かれると、スラっと腰まで伸びた美しい黒髪を揺らした三年生の女生徒が入ってきた。その目元は、ややきつく眉を寄せられており、何かに対する不満のような意志を表していた。その凛とした顔立ち、美しい切れ長の瞳に睨まれるなら、それこそ本望というのがこの場にいる男子全員の感想であることはまず間違いないはずだ。そう森城柑奈は確かに美少女だった。

 「さ、三年生?」
 「あれ生徒会長だよ!」
 「凄く綺麗……。」
 「あの足に踏まれたい。」
 「むしろ抱いて……。」

 周りからヒソヒソ話が聞こえてくる。中には不穏なものもあったが、まぁその全てが彼女の美しさを褒めたたえるものだった。そんな彼女は教室内をつかつかを歩いて俺の前で止まった。周りの連中が何事かと一斉に息を飲むのがわかった。集中した視線が皮膚に当たっていたいと感じるほどだった。

 「仁くん……。」  彼女の柔らかそうなが唇が開き、そこから落ち着いた感じのやや低い声が紡ぎ出される。周りの空気がはてなマークで満たされた。

 「じんくん? じんくんって何?」
 「嘉瀬川の名前じゃなかったっけ?」
 「何? なにかトラブルなの?」
 「誰かスマホ持ってきてねーのかよ。」

 この時点で俺の前身から約1リットルの水分が汗として排出されていた。そしてそんな俺の状態や周りの空気をお構いなしに彼女が喋り出す。

 「どうして今日もお昼に生徒会室に来なかったのですか。ずっと一人で待っていたのに。一人ぼっちで食べるお弁当は本当に寂しいものですよ。いえ弁当自体はとっても美味しかったのですが……。それに……わたし昨日は一緒に帰りましょうねって言いました。なのにどうして先に帰っちゃったのですか。まさかまたあの女のところへ行ったのですか。わたしに内緒で……」と口を動かし続ける彼女の目には涙が浮かび始めていた。

 「ちょっと待って柑奈……。」悪化する状況を押し留めようと俺は彼女に声を掛ける。

 「柑奈? 呼び捨て?」誰かが言った。

 「あっ……いや……柑奈さん。」

 「三年生を下の名前で……やっぱ嘉瀬川って……。」とまた誰かが呟く。

 「えっと、その、山城せん……先輩。まずは落ち着こう。うん。」

 「生徒会長、若しかして嘉瀬川に脅されてる?」
 「誰か先生に報告した方がいいんじゃ……。」
 「きっとエロ同人誌みたいなアレなのよ。」
 「あの女とか言ってたよね。痴情のもつれ?」
 「ちょっと誰か動画撮ってよ。」

 教室内に蔓延する不穏な空気がますます濃くなっていくのを遮るために、俺は大きな声で言った。

 「アッ、アー! ソウダッター! 生徒会長に入部届を出すのをすっかり忘れてたー。 ちょうど今届けに行こうと思ってたところだったー。」

 自分で言っておきながら『生徒会長に入部届ってなんだよ』と思いつつ、俺は柑奈の手を引いて教室から彼女を連れ出した。

 翌日。教室では俺に対する警戒レベルが二段階程引き上げられていた。


森城柑奈
聡明で落ち着いた雰囲気のお姉さまキャラだったが、主人公の入学によりキャラ崩壊。しかしそれでも柑奈信者の心が揺らぐことはなかったという。



第2話 帝国妖異対策局

予告
孤独な中学校時代の仁を支えたのは帝国妖異対策局の面々だった。今、仁は対策局へ入るために努力を続けている。そんな彼を不安そうに見守る柑奈。彼女は仁が危険な仕事に関わるのを避けて欲しいという思いと、仁が足げく通う対策局の女性陣の誰かに心を奪われてしまうのではないか、という2つの不安に駆られていた。




CREDIT

© 2019 帝国妖異対策局
License: CC BY 4.0

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  • tale-jin01.txt
  • 最終更新: 2019/07/05 17:37
  • by tytman