消えたロバート・ハリスン・ブレイクの書き残したメモ
16年前の魔導書盗難事件がずっと頭から離れない。あの事件はまだ終わっていない。
今朝、おぞましい腐肉が7体、通りの向こうに立っているのを確認した。
時間はもうほとんど残っていないだろう。
この身には《古き神々さえ忌み畏れたるイゴーロナク》の印が刻まれている、もはやどこに逃げることも叶うまい。
それでも、もしかすると私と同じような境遇に陥るかもしれない誰かのために、このメモを残す。
腐肉共がここに来る前に、ここに火を放って詠唱を始めるつもりだ。
この肉体も魂も一片だって奴らにくれてやるつもりはない。
このメモも焼けてしまうかもしれないし、奴らの手に渡ってしまうかもしれない。
少なくともヴォルヴァドスによる火の儀式を施したエルダーサインは残るだろう。
奴らには見ことも触れることもることもできないはずだ。
もしこのメモを見ている君が、エルダーサインを手にしているのであれば、大体の状況は察しがつく。
君も間もなく死ぬ。
だが選ぶことはできる。
このまま奴らに魂を蹂躙され、肉体を貪られて終わるか、紅蓮の業火でその身と共に奴らを焼き滅ぼすか。
もし奴らに一泡でもふかせてやるつもりなら、そのエルダーサインを掲げ《ヴォルヴァドス》の名を唱えろ。
その火はイゴーロナクを異界へと追い払い、その眷属どもを焼き尽くす。
扉を誰かが激しく叩いている。きっと奴らだ。
もう始めなければ。
君が私と同じ道を選んぶのであれば、友よ。
来世で会おう。