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  • 怖い話「警察官」

     

    数年前、私は某市の公営住宅に住んでいた。全部で8棟ある建物の6棟目が私の住まいだった。あまり柄の良い地域ではなかったので、しばしば犯罪事件も起こってニュースになるようなこともあった。私が引っ越しすることを決めたとき、特に隣人にも知らたりはしなかった。

    ある金曜の夜、その日の仕事を終えて家に戻った。凄く忙しくてハードだったので、凄く疲れを感じていた。エレベーターに乗って、自分の階のボタンを押した。ドアが開いたとき、男がそこに立っていた。彼は長いコートを着て、目を隠すように深く帽子を被っていた。

    「こんにちは」私はなるべく礼儀正しい感じで言った。

    その男は応えなかった。

    エレベーターから出ると、彼は私を乱暴に押しのけて、エレベーターに入り、ボタンを押し始めた。

    「ふざけやがって」私はつぶやいた。

    私は部屋の鍵を開けて中に入った。そのまま洗面所に向かい、手を洗った。鏡をチラっと見たときに奇妙なことに気が付いた。私のシャツに赤黒い染みが付いていたのだ。見たところ血のように見えた。

    それから私は、エレベーターで私を乱暴に押しのけた男のことを思い出した。

    嫌な気分になった。この血がどこで付いたのかハッキリしないが、私は疑いを抱き、すぐに玄関のドアの鍵をかけた。
    それからシャワーを浴びて、シャツはゴミ箱に捨てた。

    その夜はあまり眠れなかった。

    翌日の土曜日、私はデートのために、魅力的な若い女性と会う予定だった。私が出かける準備をしていると、玄関のチャイムがなる音が聞こえてきた。

    「こんな時になんだよ!」私はイライラとして呟いた。

    既にデートの時間に遅れそうだったので、私はこれ以上時間を浪費したくなかったのだ。

    玄関のドアスコープを除くと、外に警察官が立っているのが見えた。

    「なんでしょうか?」私はドア越しに大きな声で聞いた。

    「お手間を取らせて申し訳ありません」警察官は丁寧な調子で言った。
    「いくつか質問をさせていただきたいのです。実は昨晩、お隣の部屋で殺人事件がありました」

    昨晩の男と血の件が頭をよぎったが、デートの時間に遅れそうだったので、私は話を長引かせたくなかった。
    「申し訳ないですが、私は何も知りませんよ」と私は嘘をついた。

    「しかし、何か我々に有益な情報があるかもしれません」と警察官は応えた。
    「誰か怪しい人を見掛けませんでしたか?少しお話を聞かせていただけませんでしょうか?」

    「昨晩は家にいませんでした」私はまた嘘をついた。「お力になれなくて申し訳ないです」

    「わかりました」と警察官が答えた。「お時間を取らせて申し訳ありませんでした」

    警察官が立ち去ったので、私は急いでデートの準備をした。

    それから数日後、私は非常に神経質になった。隣人が殺されたのだ。やはりこの辺りは危険な地域だ。私は早く引っ越しをしようと思った。

    私は、警察官に嘘をついたことを非常に後悔していた。たぶん私は犯人を見ていたのだ。顔は見ていなかったが……。それにしても、おそらく殺人犯を捕まえるために役立つ話ができたには違いなかった。事件というものは、小さな取っ掛かりから解決されることも多い。

    ある朝、仕事に出かける前、私は警察があの事件を解決することが出来たのだろうかと気になった。私はテレビをつけてニュースを見てみたが、例の殺人に関する情報はどこもやっていなかった。気持ちが沈み、私は胃が重くなるような感覚を覚えた。まるで後ろ髪が引かれるような感じがした。

    その日、家に帰ると酷く悪臭がすることに気が付いた。私はビルの管理人を探し、彼に悪臭のことを伝えた。ついでに彼に例の殺人事件のことについて尋ねてみたが、奇妙なことに管理人は、このビルで殺人なんて起こっていないと答えた。

    いやな胸騒ぎがした。私は管理人に自分の階まで来てもらった。悪臭はさらに強くなっていた。

    管理人に頼んで、マスターキーで隣の部屋を開けてもらった。そして恐ろしいものを見つけた私達は、恐怖に震えながら立ち尽くした。

    隣人の死体が血だらけの床の上に横たわっていた。何日もそこに横たわっていた遺体から発する死臭は、もはや耐え難いほど酷いものだった。