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  • 怖い話「赤ん坊の泣き声」

    数年前のこと。被害者を自宅から巧みに誘い出して殺害する恐ろしい殺人鬼のことが、SNS上で話題になったことがある。

    ある晩のこと、中年女性が家の中で、座って新聞を読んでいた。彼女の夫は、夜勤の仕事が多かったので、彼女は家で一人でいることが多かった。

    夜も更けてきたので、そろそろベッドに入ろうかという時、彼女は家の外に奇妙な音を聞いた。その音はまるで赤ん坊がないているかのようなもので、どうや玄関にある植え込みから聞こえてくるように思えた。

    気味悪いと思ったが、その正体を見極めたいという気持ちも強くなっていた。そのとき、飼い犬が彼女の足もとから飛び出し、玄関に向かって吠え、激しくうなりはじめた。彼女は不安を感じ、足を止め、かわりに警察を呼ぶことにした。

    彼女から赤ん坊のような泣き声がするという話を聞いた警察は、「わかりました。何があってもドアを開けないでください」と答えた。

    女性は、電話を持ったまま数分間待った。やがてサイレンの音が聞こえ、二人の警官がやってきた。一人の警察官がチャイムを鳴らして彼女に到着を知らせる一方、もう一人が庭の植え込みを調べた。

    女性はドアを開いて警官を入れた。警官は人形を片方の腕に抱きかかえていた。彼女はその人形の腹部にスピーカーが付いていることに気が付いた。警官が人形の腰部にある再生ボタンを押さえると、例の赤ん坊の声が聞こえてきた。

    警官は、夜中で一人でいる女性をターゲットにした連続殺人犯がいることを説明した。その殺人鬼は、こうしたトリックを使って女性を騙して、玄関から外へ誘い出すのが常套手段だということだった。そいつは、庭の茂みに潜んで、赤ん坊の声を鳴らすのだ。

    録音された赤ん坊の泣き声は、女性には凄く気になってしまうようで、簡単に家の外に誘い出すことができるということだった。そしてその女性が赤ん坊の声を手掛かりに当たりを探しているときに、植え込みの陰等から姿を現して、殺人を行うのだと言う。

    警官によると、ここ数日、彼女と同じように家で一人にいるときに、家の外で赤ん坊の声を聞いたという連絡が何件かあったということだった。その殺人鬼は、近隣の街で既に二人の女性を殺害しており、もし先ほど犬が吠えなかったら、彼女が三人目の犠牲者になっていたかもしれなかった。

    この赤ん坊の泣き声を使った殺人鬼の話は以前からネット界隈では噂になっていたものの、彼女や犠牲者のように実際に被害が発生するまでは警察はまともに取り合ってきませんでした。今でも時折、話題に昇ることがありますが、犯人は未だに捕まっていません。


  • 怖い話「警察官」

     

    数年前、私は某市の公営住宅に住んでいた。全部で8棟ある建物の6棟目が私の住まいだった。あまり柄の良い地域ではなかったので、しばしば犯罪事件も起こってニュースになるようなこともあった。私が引っ越しすることを決めたとき、特に隣人にも知らたりはしなかった。

    ある金曜の夜、その日の仕事を終えて家に戻った。凄く忙しくてハードだったので、凄く疲れを感じていた。エレベーターに乗って、自分の階のボタンを押した。ドアが開いたとき、男がそこに立っていた。彼は長いコートを着て、目を隠すように深く帽子を被っていた。

    「こんにちは」私はなるべく礼儀正しい感じで言った。

    その男は応えなかった。

    エレベーターから出ると、彼は私を乱暴に押しのけて、エレベーターに入り、ボタンを押し始めた。

    「ふざけやがって」私はつぶやいた。

    私は部屋の鍵を開けて中に入った。そのまま洗面所に向かい、手を洗った。鏡をチラっと見たときに奇妙なことに気が付いた。私のシャツに赤黒い染みが付いていたのだ。見たところ血のように見えた。

    それから私は、エレベーターで私を乱暴に押しのけた男のことを思い出した。

    嫌な気分になった。この血がどこで付いたのかハッキリしないが、私は疑いを抱き、すぐに玄関のドアの鍵をかけた。
    それからシャワーを浴びて、シャツはゴミ箱に捨てた。

    その夜はあまり眠れなかった。

    翌日の土曜日、私はデートのために、魅力的な若い女性と会う予定だった。私が出かける準備をしていると、玄関のチャイムがなる音が聞こえてきた。

    「こんな時になんだよ!」私はイライラとして呟いた。

    既にデートの時間に遅れそうだったので、私はこれ以上時間を浪費したくなかったのだ。

    玄関のドアスコープを除くと、外に警察官が立っているのが見えた。

    「なんでしょうか?」私はドア越しに大きな声で聞いた。

    「お手間を取らせて申し訳ありません」警察官は丁寧な調子で言った。
    「いくつか質問をさせていただきたいのです。実は昨晩、お隣の部屋で殺人事件がありました」

    昨晩の男と血の件が頭をよぎったが、デートの時間に遅れそうだったので、私は話を長引かせたくなかった。
    「申し訳ないですが、私は何も知りませんよ」と私は嘘をついた。

    「しかし、何か我々に有益な情報があるかもしれません」と警察官は応えた。
    「誰か怪しい人を見掛けませんでしたか?少しお話を聞かせていただけませんでしょうか?」

    「昨晩は家にいませんでした」私はまた嘘をついた。「お力になれなくて申し訳ないです」

    「わかりました」と警察官が答えた。「お時間を取らせて申し訳ありませんでした」

    警察官が立ち去ったので、私は急いでデートの準備をした。

    それから数日後、私は非常に神経質になった。隣人が殺されたのだ。やはりこの辺りは危険な地域だ。私は早く引っ越しをしようと思った。

    私は、警察官に嘘をついたことを非常に後悔していた。たぶん私は犯人を見ていたのだ。顔は見ていなかったが……。それにしても、おそらく殺人犯を捕まえるために役立つ話ができたには違いなかった。事件というものは、小さな取っ掛かりから解決されることも多い。

    ある朝、仕事に出かける前、私は警察があの事件を解決することが出来たのだろうかと気になった。私はテレビをつけてニュースを見てみたが、例の殺人に関する情報はどこもやっていなかった。気持ちが沈み、私は胃が重くなるような感覚を覚えた。まるで後ろ髪が引かれるような感じがした。

    その日、家に帰ると酷く悪臭がすることに気が付いた。私はビルの管理人を探し、彼に悪臭のことを伝えた。ついでに彼に例の殺人事件のことについて尋ねてみたが、奇妙なことに管理人は、このビルで殺人なんて起こっていないと答えた。

    いやな胸騒ぎがした。私は管理人に自分の階まで来てもらった。悪臭はさらに強くなっていた。

    管理人に頼んで、マスターキーで隣の部屋を開けてもらった。そして恐ろしいものを見つけた私達は、恐怖に震えながら立ち尽くした。

    隣人の死体が血だらけの床の上に横たわっていた。何日もそこに横たわっていた遺体から発する死臭は、もはや耐え難いほど酷いものだった。

     


  • 怖い話「冷蔵庫」

    川崎国雄は、妻のことを憎んでいた。結婚して20年になるが、彼は口煩い妻にずっとウンザリしていた。毎日のように聞かされる妻の罵詈雑言にすっかり気が滅入ってしまっていた。自分を奴隷のようにこき使う妻に心底ウンザリとしていた。国雄は妻を一息に葬ってしまいたいと考えるようになった。

    彼は完璧な計画を立てた。
    夕方になって妻が家へ帰ってくると、彼女は冷蔵庫を開いて中身に目をやりながら、国雄に夕食を作るように言った。しかし国雄は夕食を作らず、代わりに妻をちょっと驚かせた。国雄は、妻がちょっとしたサプライズが好きなのを知っていた。

    「実は、もう夕食を作って外のガレージに用意してあるんだ」

    釣りが趣味の国雄は、ガレージに大きな業務用の冷蔵庫を置いており、釣ってきた魚をそこで冷凍していた。広いガレージで、時折バーベキューをすることもあった。

    彼女は一旦、家を出て暗くなっているガレージに向かった。国雄は、台所から肉切り包丁を取って、彼女の後に続いた。

    数分後、彼は額から汗をぬぐった。

    彼は、女性の体を解体するのが、これほど重労働だったとは思っていなかった。その場には全部で6つの肉片があった。頭、両腕、両足、そして胴体だった。彼は注意深く、肉片をラップで包み、ロープできつく縛った。

    作業を終えると、彼の足もとには6つの綺麗な包みが出来ていた。国雄はそれらを拾い上げて、業務用冷蔵庫に放り入れていった。それから扉を閉め鍵を掛けた。床をモップで丁寧に掃除し、家に戻り、台所で包丁を洗ってから元の場所に戻した。

    ソファーに腰を掛けると、国雄はそこで初めて安堵感を得た。彼は自由になった。誰かに妻のことを尋ねられても、男を作って逃げたといえば、誰も疑ったりしないだろう。誰も冷蔵庫に彼女がいるなって思いも寄らないと思った。

    彼はうたたねを始めた。今や、我が家は平和で静かだった。とても静かだ……

    ドンドンと跳ねる音以外は!

    国雄は飛び起きて、耳を傾けた。何かがドンドンと跳ねている音が、ガレージの方から聞こえてきた。その音はだんだんこちらへ近づいてきているように思えた。

    突然、国雄は目覚めた。彼は今のが夢であることを知った。しかし、あまりにもリアルな夢だった。彼の心臓は大きく早鐘を打ち、汗が顔中から落ちてきた。彼は台所から肉切り包丁を取り出した。そして冷蔵庫を確認するためにガレージに向かった。

    冷蔵庫の鍵はしっかりと掛けられていた。彼が家に戻ろうとすると、床に何かがあることに気が付いた。背中に冷たいものが走った。それは血にまみれたラップだった。

    国雄は冷蔵庫の鍵を開けて中を見た。そして彼は恐怖に凍り付いた。中身は空っぽだった。6つの包みは全部なくなっていた。

    正気が失われそうな中、彼は立ち尽くしていた。その時、司会の端に、彼は何か動くものを見たような気がした。ひとつの影が、床から彼の後に回り込んだ。彼は急いで振り返ったが、そこには何もなかった。

    そのとき、カチッと音がしてガレージの明かりが消えた。彼は暗闇の中に投げ出された。耳障りな音が聞こえて来た。その音は四方から近づいてきて、彼を取り囲んだ。

    彼は肉切り包丁を暗闇に向かって、やたら滅法に振り回した。闇の中では何も見ることができなかった。彼の耳には、ただ床に落ちていたラップが床をズレ動いているような音しか入ってこなかった。

    突然、彼の両足の間を何かが滑りぬけていった。彼は冷たい指が、自分の首に食い込んでくるのを感じた。彼は必至に叫び声を上げようとしたが、声は出てこなかった。何かが肉切り包丁を彼の手からうばいとった。彼は首に食い込んだ指が、ますます力強く締め上げてくるのを、意識が失われるまで感じていた。

    警察がガレージを調べたのは、事件発生から一週間後のことだった。彼らがガレージの業務用冷蔵庫をあけると、そこには生命が失われた川崎国雄の体があった。その体はバラバラになった彼の妻のパーツに取り囲まれていた。


  • 怖い話 「壁の文字」

    私が若かった頃に住んでいた街に、古い廃ビルがあった。怖い噂が色々とあって、地元の子供たちは誰も近づかなかった。

    そのビルのコンクリートの壁は、ヒビが入り、ところどころ崩れていたりした。窓は全て割られており、中の床にガラス片が散らばっていた。

    ある夕べのこと、肝試しに、親友とこの恐ろしい廃ビルを探検してみようということになった。

    私達は、ビルの裏手から窓を超えて中に入り込んだ。廃ビルの中はどこもかしこも汚れており、床は泥のようなもので覆われていた。

    私達は、体にこびりついたホコリを払って、辺りを見回した。私達は、支柱の近くの壁に文字が描かれているのを見て驚いた。

    ”僕は死んだ”

    そう書かれていたのだった。

    「たぶん、俺達みたいに誰かが入り込んでイタズラしたんだよ」と私は言った。

    「だな。……おそらく……」少し怯えた声で友人が答えた。

    私達は、1階の他の部屋も探検してみた。元はキッチンとして使われていたらしき部屋で、私達はまた壁に掛かれた文字を見つけた。

    ”僕は二階の部屋にいる”と読めた。

    私達は、ひびが入った階段を昇って二階に向かった。私が先頭を進み、友人が私の後をピッタリとくっついてきた。

    私は怖くなかったが、友人は少し怯え始めていた。

    二階につくと、左側にある狭い廊下を慎重に進み始めた。廊下の突当りに、閉じられたドアがあり、その脇の壁には、
    不吉な文字が書かれていた。

    ”君たちは僕をこの部屋で見つけるだろう”

    それを見た友人は、恐ろしさのあまり震えだした。私は静かに後ずさりした。不吉な文字を見るのがいやで、目を背けた。

    友人は、もうこれ以上進むのは止めようと言ったが、私は何もないから大丈夫だよと友人をなだめた。

    私はドアノブを回した。ギーっと音を立てて扉が開いた。私達が中に足を踏み入れると、中が空っぽだということに気が付いた。

    そこには2つの閉じられたドアが両サイドにあり、壁にはまた文字が書かれていた。

    ”僕の頭は左の部屋、僕の体は右の部屋”

    友人はその文字を見て正気をなくしてしまった。ギャーと喚くと、取っ手を返して逃げ出そうとした。

    私は友人の手を掴んだが、友人は私の腕を振り払うと、扉を開いて逃げて行った。

    友人の足音が階段を下り、遠ざかっていくのが聞こえた。

    私は足を踏ん張って、勇気を奮い起こして、自分の中の恐怖と戦った。意を決して、私は右に進んで扉を開き、中へと入った。

    そこには小さな文字が描かれていた。

    ”僕の体…この辺の下”

    私は床に目を落とした。私が立っている足元にも文字が書かれており、思わず私は飛びのいた。文字には……、

    ”私の首が向こうから、お前の後に来ている。振り返ってみろ”

    私の背中越しから、扉が開く音が聞こえた。私は素早く振り返ると、向こうの扉から影のようなものが動いているのが見えた。

    突然、何かが私のいる部屋に転がり込んで、そのまま壁際で止まった。

    それは切断された友人の首だった。

    首は、焦点を合わせないままに私の方を見ていた。私は恐怖のあまり絶叫し、震えながら窓を乗り越え、二階から地面に飛び降りた。

    着地に失敗し、腕の骨を折ってしまったが、恐怖のあまり痛みを気にする間もなく、家に走り帰り、泣きながら両親にこの出来事を話した。

    警察が呼ばれ、例の廃ビルを調査した。最初、警察は友人を見つけることはできなかった。

    壁に書かれた文字もなかった。

    警察は廃ビルの上から下まで徹底的に捜査したが、友人を見つけることはできなかった。

    結局、二階に横たわっている友人の体だけが残された。

    今も彼の首は発見されていない。

     

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  • 怖い話 「クローゼット」

    何年か前の話。地方の某大学に合格した川島悟は、市内にマンションを借りてそこから通学していた。比較的裕福な家庭ということもあって、広くてお洒落な部屋だった。床はフローリングでクローゼットは壁に埋め込まれたタイプ、窓から見える市内の景色もちょっとしたものだった。

    入居してから半年くらい後、彼は奇妙なことが身の回りに起こっていることに気が付いた。時々、大学から帰ってきた時に、出掛ける時に開きっぱなしだったはずのカーテンが閉じられていたり、部屋に置いてあるものの位置が変わっていたりすることがあった。

    気になって以降、注意して見てみると、ほぼ毎日のように何等かの異変が部屋に起こっていることがわかった。川島悟は、友人の友里と雄二に相談することにした、

    「そんなに怯えることないじゃないか?」と雄二が言った。
    「いやいや、俺が大学に行ってる間に誰かが押し入ってるんだ。それで……」

    「で、何?」と雄二が遮った。
    「カーテンを閉じてくれて、部屋を片付けてくれてるのか。なんかツマラナイ話じゃないか」

    「いえ、怪しいわ。ストーカーか何かじゃないの?」と友里が言った。
    「ありそうな話よ。本当なら、早く警察に相談した方がいいわ」

    「警察が何してくれるって?」と雄二が言った。
    「何か壊されたとき、何か被害が出ているわけでもなし。窓やドアの鍵がこじ開けられたわけでもないんだろ? 決定的な証拠もない。それじゃ警察は動いてくれやしないよ」

    「じゃ、どうすればいい? 俺には何もできないのか」
    川島悟は絶望的な声を上げて言った。

    「大丈夫、私が良い方法を教えてあげるわ」友里が言った。
    「簡単なことよ。ビデオカメラを部屋に設置して、留守中の部屋を撮影しておけばいいのよ。もしストーカーが映っていたら、それが証拠になって警察も動いてくれるでしょ?」

    「それいいね。素晴らしいアイデアだ。早速やってみよう」と川島悟は明るい気持ちになって答えた。

    「それで何も映ってなかったら、その映像を精神科医に見せてアドバイスを受けた方がいいかもな」と雄二がからかった。

    その晩、友里から小型ビデオカメラを借りて、部屋を見渡せる場所に目立たないように設置した。翌朝、出かける前に録画ボタンを押して、そのまま大学に出かけた。それで安心したからか、大学での講義の間、すっかりそのことを忘れて過ごすことができた。

    部屋に戻ってカメラを回収すると、友里に電話を掛けながらビデオの再生ボタンを押した。

    「ちょうど今、部屋に帰ってビデオを再生しているところだよ」川島悟は言った。

    「そうなんだ。このまま電話切らないで、何が映ってるのか教えてよね」

    小さな液晶画面に録画映像が映し出された。そこには、ビデオカメラを設置した後、大学に出かける自分自身の姿が写っていた。それからしばらくの間、特に何も映っていなかったので、彼は早送りしながら映像を見た。

    「特に何も映ってないね」と川島悟は言った。

    「なんだ。それならやっぱりテレビでも見た方が面白そうね……」

    「うわっ!なんだこりゃ!」
    川島悟は突然叫んで、再生ボタンを押して、早送りをやめた。

    「なに!なに!どうしたの!?」
    友里も慌てて電話越しから尋ねた。

    「部屋のドアが開いた!」川島悟が叫んだ。「女だ……」

    「その人、何してるの?」

    「立ってる……、ドアを閉めて……、歩き回ってる……」

    「なにそれ怖い! どんな見た目なの?」

    「顔は見えない……、長い…黒い…ボサボサの髪……、ボロボロの服……」

    「知ってる人?」

    「いや。全く知らない。ほ、包丁を持ってる……。でかい出刃包丁……、ごみ箱をあさってる……今、俺の服を取って臭いを嗅いで……」

    「気持ち悪い。何なのその女」

    「クローゼットを開けて……中に入った……」

    その後、しばらく映像を見ていたが部屋は空っぽのままだった。

    「早送りにしていてるけど、もう何も映ってないよ」

    「これってどう思う?」川島悟は友里に言った。
    「これ証拠になるよね。警察に持って行ったら、ちゃんと動いてくれるよね」

    「ええ、もちろんよ。雄二だって、これを見たらもう茶化したりしないわよ」

    「雄二は疑ってたしね。これで信じてくれるだろう。友里、ありがとうな。いい友人を持って……うわっ!」

    「なに?なに?どうしたの!?」

    川島雄二は再び再生ボタンを押して、通常再生に戻した。

    「ドアが開いた!」

    「誰?」

    「あぁ、僕だ。ちょうど大学から帰ってきたところだよ」

    川島悟は、自分の姿が映像に映し出されているのを確認すると、ビデオカメラの電源を落とした。

    「それじゃ、警察に見せにいきましょう。私も一緒に行くわ」

    「ありがとう。じゃあ、15分後に駅前で待ち合わせるとしよう」
    川島悟は、ビデオカメラを掴んでバッグに入れた。

    「うん……ちょ、ちょっと待って!」友里が言った。
    「さっき女がクローゼットに入ったって言ったわよね。その後、女が出てくるところを見た?」

    川島悟の背筋に氷のように冷たいものが走った。その瞬間、クローゼットがギーッと開く音を聞いた。

    「逃げて!そこから逃げて!」友里は絶叫した。しかし遅すぎた。そのまま通話は切れて、彼女が何度電話しても、もう通話がつながることはなかった。

    その夜、警察は血の海の中に、18歳の大学生の惨殺死体を発見した。その腕にはビデオカメラが固く握られていたが、メモリカードは抜き取られていて、警察も見つけることはできなかった。

    警察の必死の追跡にも関わらず、結局犯人は見つからなかった。

    時折、TV番組で奇妙な事件として取り上げられることがあるが、
    住人に気づかれないまま、犯人が天井裏や押入れ、クローゼットに隠れていたという事件は、意外に多いらしい。

    中には、一人暮らしの老人宅の天井裏に、女が数年隠れ住んでいたという事件もある。

    気を付けてくださいね。

     

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  • 怖い話 「首狩り峠の噂」

     




     

    某県の山奥に、心霊スポットとして有名な、通称「首狩り峠」と呼ばれているところがあります。その昔、この辺りにあった集落の村人が落ち武者の首狩りを行ったとか、戦争のときに非道な人体実験が行われ、その犠牲者の遺体には首がなかったとか、色々な噂がまことしやかに語られています。そんな噂のひとつを紹介します。

    ある日、母親の入院する病院からの帰り道、父親の運転する車の中から、友里はだんだんと暗くなってくる山々の景色を眺めていた。
    急に雨が振り始め激しく車を叩き付け、ドラムを叩くような音が響いてきた。

    突然、大きな音がして車が揺れた。
    父親は必死にハンドルを操作し、スリップしながら、必死にブレーキをかけた。
    車は反対方向に向き、山側のコンクリートの壁に車体をこすりつけながらも、なんとか止めることができた。

    娘に怪我がないことを確認した後、父親は車のダメージを調べた。
    前のタイヤは両方パンクしており、左のフェンダーはぐちゃぐちゃにひん曲がっていた。
    それ以外には特にダメージは内容だった。

    「何か引いてしまったのかもしれないな」父親は娘に言った。
    「どちらにしろタイヤは両方とも駄目だ」

    「直せるの?」と友里は父親に聞いた。
    突然の出来事に震えていた。

    「無理だな」と父親は応えた。
    「スペアのタイヤが1個しかないんだ。困ったな。さっきからずっと車も通ってないし…」
    「携帯もつながらないか…」

    困り果てた父親が周囲を見回すと、暗闇と激しい雨に遮られてはっきりとは見えないが、
    道のずっと先に街頭らしきものがポツンとひとつだけついているのが見えた。

    「あそこに言ってみるか」と父親は言った。
    「そう遠くなさそうだし、お父さん一人で行ってくるから、車の中で待ってるんだよ」

    「うん」と友里は不安そうに応えた。「でも早く帰ってきてね」
    「わかった。しっかり待ってるんだぞ。内側からロックをかけておくんだ。なるべく早く戻るからね」

    友里は、車から離れ、激しい雨と暗闇に消えていく父親を見送った。

    それから1時間以上たっても父親は戻ってこなかった。
    友里は、どうしてそんなに時間が掛かるのかわからなかった。
    今では雨は止み、高く昇った月がうっすらと道を照らしていた。
    友里は、バックミラーを見ながら、もうとっくに戻ってきていいはずだと考え、不安を募らせていた。

    ちょうどその時、バックミラーに人影が移るのが見えた。まだ少し離れてはいるが、こちらへ向かって歩いてきている。
    最初、父親が戻ってきたのかと思い、彼女がよく目をこらして見てみると、それは勘違いであることがわかった。
    それはまったく知らない人だった。

    それはオーバーオールを着た大柄な人間で、もじゃもじゃの髭を蓄えていた。
    彼は片手に何か大きな物を持っており、それを前後に揺らしながら歩いていた。

    何かが彼女を非常に不安にさせた。目を凝らしてバックミラーをじっくりと見てみると、
    薄暗くてはっきりとは見えないものの、もう片方の手に大きな肉切り包丁のようなものを持っていることがわかった。

    思考が急速にめぐり、怯えながらも彼女は車のドアロックが掛かっていることを確認した。
    後方席に飛び移り、そこでもドアロックを確認した後、身を低くしてバックミラーを見た。

    男は車に近づいてくると彼女は身を潜めた。
    恐る恐るバックミラーを覗くと、

    男と目があってしまった。

    男は突然腕を振り上げて、手に持っているものを見せた。
    自分の視界に血の色が映ると、友里は気が狂ったような叫び声を上げた。

    それは、無残に切られた父親の首がだった。

    彼女は、全身を振るわせながら叫び声を上げ続けた。自分自身を押さえることはできなかった。
    心臓は早鐘を打ち、息ができなかった。
    グロテスクなそれは、父親の恐怖の表情で固められ、
    口は無理やり裂き開かれ、目の玉は裏返されていた。

    男が車に辿りつくと、彼は顔を窓に押し付けて彼女をギョロリと大きな目で見た。
    眼は血走り、その髪の毛は泥で薄汚れ。その顔にはいくつもの大きな傷跡が残っていた。

    男はドアを開けようとするが、ロックが掛かっているためドアは開かなかった。
    友里は恐ろしさと狂気のために頭を抱えて身を縮めて震えていた。

    再び雨が激しく振り始めた。激しい雨が車に打ち付けられ、大きな音が車の中に響いてきた。
    恐る恐る友里が顔をあげると…

    男が大きな狂人の眼をこちらに向けていた。その顔はニヤリと嫌らしい笑みに歪んでいた。
    男はポケットに手を入れた、何かを取り出した。

    それは、

    彼女の父親が持っていた車のキーだった。

    おしまい。

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  • 怖い話 「人形」


     

    友里の12回目の誕生日。その朝、彼女は母親に起こされると同時に、彼女宛に届いた宅配便の荷物を渡された。
    急いで中身を確認して見ると、そこには気味の悪いものが入っていた。

    それは、彼女がこれまで目にしたことのないほど醜くおぞましい姿をした人形だった。
    元はアンティークドールだったような名残があるものの、髪はほとんどハゲあがっており、肌の部分は、
    あちこちがひび割れたり、汚れがこびりついていた。最悪なのはその歯。
    そこには長く鋭く尖った歯が並んでおり、まるで野獣の牙のようだった。

    怖くなった彼女は、震えながら人形を部屋の片隅に投げ捨てた。
    それを見た母親が彼女を叱り、人がせっかく贈ってくれた人形を粗末に扱ってはいけないと友里を諭した。

    「ちゃんと大事にするのよ」

    友里は嫌がって抵抗したが、母親は一切耳を貸さず、友里に人形を大事にするようにきつく言いつけた。
    それで彼女は、ちょうど階段下にある玄関の靴箱の上に人形を置いた。
    靴箱の上におかれた水槽がちょうど死角になって、醜く禍々しい人形を見なくて済んだ。

    それから何日か過ぎた夜のこと。
    友里がベッドに横になっていると、奇妙な音が聞こえて来た。ひきずるような音が5分ほど続き、
    それから何かを引っ張るような音、そして最後に、とても素早い感じで小走りするような音が聞こえた。

    友里は恐怖に震え、ベッドの上で動けなくなってしまった。下の階から微かに、ひそひそ声が聞こえてきた。
    その声は何かにいらだっているかのように彼女に聞こえた。

    彼女は暗闇が怖かったので、眠るときには、いつも階段の電気をつけ、部屋のドアを少し開けるようにしていた。

    「友里…始まりだ…」

    そういう声がドアの向こうから聞こえ、何かを引っ掻くような大きな音がした。
    友里は何か尻尾のようなものが、引っ込むのを見た気がした。

    怯えきった彼女は、まばたきすることさえ怖くなり、夜が明けて母親が起こしに来るまで、一睡もすることができなかった。

    友里は母親に昨晩何があったか説明したが、母親は取り合わなかった。

    「ただの夢でしょ」

    友里も、そうかもしれないと思った。

     

    もちろんそんなことはなかった。友里は、人形を捨てたいと両親に懇願したが、両親はプレゼントされたものなのだから、
    大切に持っていなさいと叱られるだけだった。友里はしぶしぶそれに従い、昨日のことは夢だったのだと自分に言い聞かせた。
    その夜ベッドに入る前に、靴箱の影に人形が置かれていることをしっかりと確認した。

    その夜、友里は眠気と一生懸命に戦っていたものの、急に眠り込んでしまった。
    やがて姿なき声が彼女を再び目覚めさせた。それは自分にしか聞こえない声なのかと不思議な感じがした。

    「ゆぅぅぅぅりぃぃぃぃ!もう4つ目に入ったよぉぉ!」

    とその声が言った。じたばたと何かがもがくような音とその声のせいで、友里は恐怖に怯え、泣いて一夜を過ごした。

    翌日、学校で友里はその話を友人達に打ち明けたが、みんな笑って取り合ってくれなかった。
    友里は、ひとりで”4つ目”の意味について考えた。そしてなんとなく、あと一晩しか残されていないような気がした。

    その夜、友里は意を決して部屋の扉を閉めて眠ることにした。廊下の電気はつけていたが
    母親は友里がいつまでも暗がりを怖がっているようではいけないと消してしまった。
    友里は母親に、代わりに階下の電気をつけてとお願いしたが、それでは両親が眠れなくなるからと、これも消されてしまった。

    結局友里は明かりがないまま眠ることになってしまった。
    しかたなくカーテンを開いて窓から差し込む僅かな光を、ライトの代わりにすることにした。
    そして彼女がうとうとしかけた頃、またあの音が聞こえてきた。

    それから例の声が聞こえてきた。今度はとてもハッキリした声だった。

    「ゆぅぅぅぅりぃぃぃぃぃ、ようやく…」

    暗闇の中で、恐怖に震えながら、階下から何かがちゃがちゃ音を立てながら登ってくる音を聞いたような気がした。
    彼女は気が遠くなって行く中、部屋の扉が静かにゆっくりと開かれていくのを見たように思った…。

     

     

    翌朝。両親は、階段の下で倒れている友里を見つけた。
    部屋からトイレに向かう時、昨晩は電気を消して暗かった為に、階段で足を滑らせて下に落ち、

    首を折ってしまったのだろうと両親は思った。

     

    彼女の遺体の傍らに人形を見つけた両親は、お葬式の際、娘の棺の中に人形を収めた。
    誰もがこの突然の悲劇に涙を流した。

    「娘がとっても大事にしていた人形なんです」
    と母親が言った。

    「これでずっと一緒にいられるね」

     

     

     

    おしまい