ゆっくり朗読 「帝国妖異譚09-11 羅刹様」 柳野町男






 

羅刹様
九 帝都の西方にある井葉八幡神社は、多くの孤児を引き受け養いたるなり。この社の宮司は、羅刹様と呼ばれる鬼族の女ということなり。
その昔は、山奥に住まいし恐ろしき悪鬼にて、人々から怖れられ羅刹と呼ばれたる由。旅人を殺して財物を盗み、放蕩の限りを尽くしたと言うことなり。
麓の村々では武士を雇いて討伐に向いしことあれど、悉く縊り殺されたり。討伐隊に加わりしものの首級、村の入り口に並べ置かれたるを見て、
爾来、村々はただただ鬼を恐れるばかりとなりたり。
羅刹様
十 羅刹の悪行はあまねく帝都まで伝わり来たれり。ある日、八幡神のお告げを受けたる先代の宮司が、羅刹の住まう山に独りで入りたり。
すぐに羅刹に出会いたり。宮司が祝詞を奏上したるところ、八幡大神の神徳たちまち羅刹を改心せしめたり。その時に宮司が詠み給いし歌

東雲の 女神降りたる 二角の
塵払いたる 八幡の神

羅刹は宮司と共に山を降り、その後井葉八幡神社に仕えたり。後に宮司が病にて死ぬ間際に夫婦を契り、その後を受け継ぎ新宮司となれり。
羅刹様
十一 名張三太夫という山賊を率いし鬼あり、羅刹が山奥に住まいしころの悪友にて、その昔に共に悪事に手を染めしことあり。
先代宮司が死したることを聞くに及び、羅刹を我妻にせんと度々神社に悪さを仕掛けたり。その悪事が孤児に及ぶに至り、
羅刹は三太夫の屋敷に赴き、自らの乳房を切り落とし、三太夫の前に置きたり。三太夫、多いに怖れて屋敷を払い、帝都を去りたり。
屋敷は後に寺となり、孤児院として使われるようになれりと言う事なり。この寺を地元では「乳房寺」と呼べり。


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